ホテル•メガチキニ

サブアカウント:路上( mixologist2828.hatenablog.com )

ノーウェア•ガス•ステーション

f:id:mixologist2828:20230219162311j:image

 仕事でとある四国の地方都市に来ている。ついでに連れて来てもらったような出張だから緊張感もない。しばらくYouTubeに夜を溶かして、喉が渇いたので自販機を求めて夜のまちを歩いた。太平洋岸だからか思ったより冷え込まない、用水路の音だけが聞こえる静かな町で、冒頭で地方都市と書いたが田舎町という方が近い。

 バスを降りた道の駅まで、自販機はなかった。道の駅には一番大きいタイプのトラックが10台ほど停まっており、エンジンの低音が響いている。運転席で仮眠を取るから暖房のためにエンジンを切らないのだろう。右端のトラックは丸太を満載していた。駐車場も丸太もトラックもその運転席も、全部都会には無いスケールの大きさだ。自販機は脇の草むらに半分埋もれ電灯も消え、なぜか東南アジアのニュース速報を流す電光掲示板だけがアクティブだった。

 *

 前回、林業トラックを見たのはプランテーションのど真ん中のガソリンスタンドでだった。広大で鬱蒼としたナツメヤシの林を突っ切る一本道にぽつんとあるそのガソリンスタンドで、なぜか私は車を降ろされた。私は東南アジアをヒッチハイクしていた。好意でのせてもらっているから文句は言えないが、その車はその後一体どこへ向かったのだろうか?一本道は真っ直ぐ進むしかないし、そうであれば降ろされる必要もなかったはずだが。

 仕方ないのでそれからたっぷり2時間、オレンジのベストを着たおじさんが運転するその林業トラックのが停まってくれるまで、親指を立てたり手を振ったり、通りのこちらに立ったりあちらに立ったりして、まれに通り掛かる車に少しだけ期待し、落胆し、気を取り直しを繰り返した。ガソリンスタンドの他にもいくつか建物はあったが店舗は全て閉業していた。薬局だけは開いていたかもしれない。曇り空でも気温は高く、道は砂っぽくて車が通る度に体に悪そうな煙が立った。地元のヤンキーはこんな場所でも改造スクーターでぐるぐる回っていたが、それも15分くらいでどこかへ消えた。

 トラックの類いには全く期待していなかったの、何を勘違いしたのか彼は止まってくれた。奥地から切ら出したばかりの長い丸太をオレンジの荷台に山積みしたそのトラックは、他のどの車と比べても格段に大きかった。彼はきっとヒッチハイクの概念も知らず、ただ純粋に困っている人を助けてくれたのだと思う。「クランタンに行きたい」が私の唯一の語彙で向こうの言葉はひとつもわからなかったが、更なる奥地へハンドルを切った場所で慌てて止めるまで見ず知らずの日本人を乗せてくれた。あのガソリンスタンドはそれまで通ったどの場所より、他の世界から隔絶されていたし、そこから助けてくれたトラックもまた、最高に現実離れしていた。

 さっき一緒に四国に来た同僚と飲みに行った時、マレーシアでトラックの高い助手席から見た、左右に延々と続く広がるナツメヤシについて話そうとしたが、結局どう話して良いか分かずにやめてしまった。

 

 

–-----------

今週のお題「行きたい国・行った国」