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文章の練習 2/6 (雨の月曜日)

目が覚めたのは9時半を過ぎたくらいだったように思うけれども、あまり良く覚えていない。今日は一日中予定がないので、時間を気にすることもない。昨晩読みかけのまま寝落ちしていたキンドルがベッドから落ちそうになっているのをそれなりに慌てて救出して、まだ焦点のうまくあわない目をこすったり押さえたりしながら昨日の続きを読む。気鋭の若手と呼ばれていて、テレビでもよく見かける社会学者の書いた小説。読み終わると寝起きの悪い俺には珍しく、シャワーを浴びて起き出す気になった。それが10時ちょうど。1階のコインシャワーから戻り、6階の個室ゾーンの扉を開けると、正面の奥の窓から明るい灰色の外が見えたので、外を覗きにと窓際まで行くと、今日はどうやら雨らしいことがわかる。国道4号線は車ばかりで人は少なく、はじめは雨が降っているのかそれとも少し前まで降っていたのか判断がつかなかったが、交差点の方を見下ろすとビニール傘が空の明るい灰色を柔らかく反射していた。カーペンターズの「雨の月曜日は」という曲を思い出すような雨だった。今日は本当は水曜日だけれども。本当はなんという曲なんだろうか、といつも思う。「雨の月曜日はさいあく」という歌詞だけがいつも頭の中でリフレインする。あとでちゃんとググっておこう。棚からキッチンセットをとって、エレベーターで8階にあがると、リビングでは清野さんがノート‐パソコンに向かっていた。大野さんはもうずいぶん長くここにいるらしい。いつも夜遅くに帰ってきてリビングのソファでテレビを見ながら寝ている。8階からは雨の国道4号線がよく見えた。トラックと営業用の白い軽自動車が多いからか、国道も心なしか明るい灰色の雰囲気を帯びている。赤信号になるたびにその左側に数ダースの赤いランプが灯り、一分ほどでまた元通り灰色の川に戻る。いつの間にか大野さんがいなくなった8階はとても静かだ。トーストとコーヒーも終えてしまったし、さっき入れた美容院の予約までもあと1時間ほどある。写真を取りたいと思うけれども、カメラは彼女の家に置いてきてしまっていた。ここ3日間くらいは建築倉庫ミュージアムの展示準備にかかりっきりだったのが昨日無事オープニングを迎え、一転してなにもやることがなくなってしまったのだが、3年前に建築学科に入ってからこの方常にこういう怒涛と怠惰の繰り返しの生活で、そろそろいい加減なれてきたのか急に訪れた退屈に戸惑うこともなくなった。いつの間にかアップルミュージックで流していたLumpの東京ユウトピア通信は終わってあとは4号線を走る車が路面に薄く溜まった水を跳ね上げる軽快な音が聞こえてくるだけ。40分後には着替えて美容院に行こう。その後は学科の横山に教えてもらったコメダ珈琲で作業しよう。パソコンを開けば何かしらやらなければならないことがあるはずだし、なければ留学中に読んでいたリキッドモダニティのまとめでもしておこう。だとしてもあと40分間は、車のシャーっていう音を聞き続けるにしては長いな。ひまだ。