ホテル•メガチキニ

サブアカウント:路上( mixologist2828.hatenablog.com )

アンダー・ザ・ハイウェイ

首都高のジャンクション下にテラスが見える。テラスというのは正確でないかも知れない。ただ少し広くて路面より高いというだけのだだっ広い空間だ。

高速バス発着場が近くにある。パスタみたいなちゃんとした奴じゃなくて、ターミナル駅にほど近い路上に大型車がかろうじて停車できるといった、ただの広めの道。その停車場の斜向かいにテラスはある。バスに乗り込んでぼんやりと外を眺めていると、さいしょの信号待ちでテラスが目に入る。

そこはとあるオフィスビルの喫煙所だ。銀色の灰皿スタンドかまばらに置かれ、黒スーツが手すりにもたれて幹線道路を見下ろしながら、吸う。高層ビルと首都高の高架に圧迫されて、サラリーマンたちはみな姿勢が悪い。

誰も通らない歩道を見下ろす短髪のサラリーマンに、白シャツを腕まくりした同僚が後ろから話しかけた。二人は手すりに肘を置きながら灰皿を挟んで話す。タバコを吸っている人たちの動作はみな例外なく尊大だ。きっと煙を吸う動作と恭しさの間には身体挙動上の矛盾があるのだろう。

酒とタバコは、礼儀を解除する小道具。あるいは、礼儀を解除していると互いに示すための小道具だ。普段、立場とビジネスマナーでがんじがらめの男たちは、ここでなにか本当のことを口にできた気がして、そして満足して黒くまばゆいディスプレイの世界に帰っていく。

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「名古屋の件、どうよ?」「ありゃ、どうしよあもないですよ」「お前も貧乏くじ引いたな」「いずれ先輩に話が来ますよ」「やめてくれよ、家も大変で今は残業できひんのや」「鬼の中村も丸くなるもんですね」「やめろや」とか。