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日記7月23日

  昔、というのは中学時代や高校時代、自分の中にはものすごく沢山のものがあるんだという感覚があった。いろんなものを読んでいたし、それは体系化された知識にはならずに雑多なまま胃の少し下あたりに溜め込まれていた。テレビも新聞もCDの歌詞カードも授業や教科書の欄外コラムまで、消化器官の能力を気にせずに摂取していた。入ってくるものに比べて、出ていくものは少なかった。その年代で交わされる会話は、所属していたラグビー部の掛け声と比べても、どれほど意味のあるものでもなかった。スマートフォンもまだ普及していなかったし、自分自身を人に理解できる形にして人にみせるやり方はまだ一つも知らなかった。世界の七割がたは自分自身の中にあった。

 

  そうやって自分の中に溜まっていたものは、整理してみるとそんなに多くの容量を食わなかった。ただデスクトップに、ダウンロードしたままに並べてあったからたくさんに見えていただけだ。実際、あまりに多くのファイルが気まぐれに名付けられていて、そのことに満足しながらも混乱してもいたのだ。少なくともそれらは使える状態でなかったのは確かだった。

 

  中央線の左側の窓越しに遠ざかる新宿の高層ビルがよく見える。帰りが遅くなって快速が終わってしまうと、総武線各駅停車は少し低い線路を走るから、この夜景を見ることはない。イヤフォンの向こうから聞こえる話し声は今日は一段と遠い。音量を上げ過ぎているのかもしれない。

 

  人と話す度に、自分の臓物を切り分けて差し出しているような気分がする。ものを書いてもそう。もう何もないよ、許してくれ。聴いて面白い話なんてないし書くに値する内容もない。整理されて取り出せるようになった俺の十年来のストックは、あまりにもあっけなく底をつきそうになっている。わけがわからない、覗き込んで混沌とした有様にたじろいだ時の方がよっぽど、辻褄が合っていると思えた。じきに身の回りの世界ももっとわかりやすく整理されていく。そうして自分ははなから複雑な関係性の中になどいなかったことが明らかになるのだろう。

 

  暑い。古い二階建の二階の天井近くは扇風機も夜風も誤魔化せない、濃度の高い熱気が沈殿していた。洗濯物をかわしてきた窓からの光が天井にあたり、火災報知器を青く照らしている。こんなに生ぬるい青色があるなんて思ってもみなかったが、それは確かに空気についている色だった。本当に、何も無くなってしまったら?それが大人になることなのか?